傀儡の恋

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 海が見たい。
 その気持ちのまま、キラは砂浜まで足を運んだ。
 ここしばらくろくに歩いていないからだろうか。
 少し足元がふらつく。それでも疲れを感じないのは、自分がそう作られているからなのかもしれない。
「僕は……」
 何故、ここにいるのだろうか。
 どうして、あのとき、生き残ってしまったのだろう。
 自分の精悍を喜んでくれた人々の前では決して口に出してはいけない疑問だ。
 だが、あの日から間違いなく、それらはキラの中でくすぶっている。
「僕は、世界に混乱をもたらすために生まれてきたのかな」
 彼があの閃光の中に消えたように、自分も消えるべきだったのではないか。
 そうすれば、実の両親の負の遺産が完全に消えただろう。世界にとってはその方がよかったのではないか、とそんなことも考えてしまう。
 それでも、育ててくれた両親のあの表情を見れば、生きていてよかったのではないかとも考えてしまう。
「堂々巡りだね」
 小さなため息とともに言葉を吐き出す。
「僕は……」
 この答えが出ないうちは前に進めない。
 そのせいで周囲に迷惑をかけているというのもわかっているが、と付け加えたときだ。
 小さな足音がこちらに近づいてくるのがわかった。
「兄ちゃん!」
 聞き覚えのある声が呼びかけてくる。
「どう、したの?」
 まだ、彼らとの距離の取り方がわからない。どうすれば傷つけずにすむのだろうか。そう思いながらキラは聞き返す。
「ボートがね、近づいてきたの。どうすればいいかな?」
 その言葉にキラはかすかに眉根を寄せた。
「誰か、マルキオ様に伝えに行った?」
 ここは個人所有の島である。しかも、マルキオにしてもカガリ達にしても、移動手段にヘリを使うことが多い。船が近づくのはたまに荷物を運んでくる者達だけだ。
 しかし、それは今日ではないはず。
 それでも近づいてくると言うことは、何か不具合があったか。あるいはよからぬことを考えているかだ。
「うん」
 それならば、細かな対策は彼に任せてもいいだろう。自分はそれまでの時間を稼げばいい。
「じゃ、案内してくれる?」
 キラはそう判断をしてこう告げた。
「こっちだよ、兄ちゃん」
 言葉とともに手を握られる。
 反射的にそれを振り払いそうになったのを、キラは必至に押しとどめた。
 自分の手は汚れているのに。
 そう考えてしまうのだ。
 だが、この子達はそれを知らない。だから、こんな風に普通に接してくれているのだろうか。
 でも、自分で事実を教える勇気もない。
 彼らに恐怖の視線を向けられたくないのだ。
 そんなことを考えてしまう自分は弱いのだろうか。それとも、人ならば当然なのか。
 誰かに問いかければ答えを与えてくれるのだろうか。それとも、と心の中で呟く。
 自分は本当に迷ってばかりだ。
 いつか迷わなくてすむ日が来るのだろうか。それとも、ずっとこんな風に迷っているのか。
 そんなことを考えながら進んでいく。
 どんなに迷っても悩んでもいい。自分の存在故に傷つく人がいなければそれでいいのかもしれない。
 そう考えたときに脳裏をよぎったのは誰の面影なのか。それを思い出す前にそれは消えてしまった。

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最遊釈厄伝